2018.06.19
人脈はそんなに大切か?
ネット上の、いわゆる「意識高い系」をターゲットにしたコラムや記事で、よく見かけるのが「人脈を作れ」というアドバイス(?)である。高い成果を上げている経営者や、独立事業者、ハイパフォーマーと言われる人たちは、総じて広いネットワークを持ち、その人脈を大切にしている……というのがその根拠で、ソフトバンクの孫社長とアップルの故スティーブ・ジョブズ氏など、著名な何人かの実在者を例に挙げて説得力を持たせようとしているのが、だいたいこの手の主張のオーソドックスなスタイルだ。
で、それを真に受けた、胡散臭い人たちが発生する。最近、非常に迷惑に感じる事例が3回ほど繰り返されたので、「ビジネスで成功するためには人脈が大事」ということについて、私なりの考えを説明したいと思った。それが今回のテーマである。したがって、結論から言うと「人脈で仕事をしようとするな」というのが、今回の主旨である。
ビジネスで成功するには人脈が重要という点について、けっこう多くの人が誤解しているように思う。「人脈を作れば、ビジネスで成功する」という誤解である。人脈が先に立ち、成果がそれについてくるという発想だ。この人たちは、とにかく異業種交流会や業界のイベントなど、人の集まるところに頻繁に顔を出す。名刺がたくさんあることが、成功者の証だとでもいうように、とにかく名刺を集めまくる。
さて、こういう人たちの何が迷惑だったかというと、それを私にも勧めてくるのである。
「坂本さんは人脈をお持ちですか? 人脈は大切ですよ。」
と、熱心に語る。で、
「○○さんをご存知ですか? 知らない? リーダーシップの世界では有名な人ですよ?」
まるで、知らない私がいけないかのように言う。(リーダーシップの『世界』ってなんだよ。)
そして、必ず言うのである。
「私が紹介しましょうか?」
と。丁重にお断りするのだが、けっこうしつこく食い下がってくる。
「この人を知っておいて、損はありませんよ。いろんな仕事につながってくると思いますよ。」
実は、ここが今回のコラムの最大のポイントである。いろんな仕事につながってきますよ。これが、大きな誤解なのだ。このような仕事のしかたをしている限り、この人たちの人脈は仕事につながらない。
一言で言えば、手段と目的を取り違えているのだ。人脈は手段であって、目的にはなりえない。少なくともビジネスではそうだ。何の目的もなく、手ぶらでシリコンバレーに行ったって、新規事業は生まれない。先にやりたい事業イメージがあって、それを実現するためにシリコンバレーの特定の企業の力が有用で、しかもそのビジネスに相手がメリットを感じてくれるような『売り』がある。そういうケースなら、シリコンバレーにいけば成果が生まれる可能性もあるだろう。目的があり、そのために必要な力がある。ビジネスだから、相手に与えるものがなければ、相手から得られるものもない。常にGive & Take。
異業種交流会やイベントで、どんなにたくさん名刺を集めても、それだけでそこから「いろんな仕事」が生まれるわけがない。人脈が仕事につながるパターンは二つしかないと、私は考えている。一つ目は、あなたに何らかの「価値」があり、それを知った人が「ぜひ力を貸してほしい」とか「一緒にこれをやりましょう」と、言ってくれるケース。だけど、たいていの場合、そういう「価値」を持った人は、そもそも自分で人脈作りに励む必要があまりない。最初に何人かと知り合って仕事をしたら、あとは勝手に口コミで人脈が広がっていくからだ。人脈が仕事を生むのではなく、その人の「価値」に人脈がついてくる。
もう一つのパターンは、自らのビジネスで成功するための方法論があなたの中にあり、それを実現するために必要なリソースやノウハウをあなたが持ち合わせていない時。その時、あなたが明確な目的と狙いをもって、その目的にふさわしい人を探し出し、相手があなたの話に乗ってくれるだけの「価値」をきちんと用意して働きかければ、その人と人脈がつながり、それがビジネスの成功につながるかもしれない。
いずれのパターンにしても、そうやって生まれた人脈は人と人とのつながりだから、恩義を返すことも含めて、礼節をもって丁寧に維持したほうがいい。相手に対するGiveを忘れ、一方的に相手に依存するような人脈は、長続きはしない。生まれた人脈を丁寧に維持することが大切だという意見には、私も異存はない。
どんなに人脈を作っても、それだけでビジネスは成功しないのである。ビジネスで成功するために必要な、自分なりの「価値」を高めることが大切で、それが人脈につながっていくのである。
ビジネスには人脈が大切かもしれない。だけど、それは数あるビジネスの手段の一つにすぎず、なんら特別なものではないのだ。そこを勘違いすると、ただたくさん名刺を持っているだけの人になる。気を付けたほうがいい。