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今日の一言

「主語」と「述語」;

 報連相についての新入社員研修や、ビジネスコミュニケーションの研修ではよく言うことだが、「事実」と「認識」をしっかり区別してやりとりをしないと、仕事の精度が著しく落ちてしまう。
 「クレームです」という例をよく出す。部下がクレームが発生したという報告をしてきたときに、相手が「これはクレームだ」と言ったのか?、それともあなたが相手の様子を見て「これはクレームだ」と認識したのか?という確認が必要だ。大抵の場合、相手が「これはクレームだ」と明言してくれるケースは少ない。
 この場合、たとえば、「A社のB部長に、お宅のサポートはC社に比べて対応が遅い。こちらが連絡したら2時間以内に何らかの返答をくれ、と電話で言われました。私はこれをクレームだと認識したので、一緒に謝りに行ってください。」と、報告すべきだし、そうなっていなかったら上司は、「B部長がなんといったのか、セリフをそのまま教えてくれ」と、事実確認をしなければならない。
 このケースで言えば、クレームだから謝りに行くという部下の認識は間違いで、『連絡受領後、2時間以内に何らかの返答をできる体制を整えろという要求を受けた』と認識すべきだ。対応としては、謝るのではなく、できるのかできないのかを検討し、その結論をもって相手のところに今後の対応について協議に行く。そういう対応が適切である可能性が高い。

 こうした基礎を前提としたときに、最近、さまざまな通信文書の中で「主語をはっきりさせない」ものが多いということが気になっている。双方向のやり取りでもそうだし、カタログやパンフレット、ガイドラインのような一方的な文書でも同様だ。作業手順書なのに、誰が、いつ、何をするのかが、はっきりわからないというケースまで発生している。
 日常的な例で言うと、たとえば、若手社員からの「2週間以内に結論を出すべきと思いますので、早急にご返信をお願いします。」というメールを見て、じゃあ2週間の猶予があるんだな、と思って放っておいたら、3日後ぐらいに「常務がまだか!と怒っています」などという後追いのメールがきたりする。だったら、「常務が、2週間以内に結論を出すべきと思っており、そのためにも早急にそちらからのご返信をいただきたいと言っております。」と書け、ということだ。
 主語がはっきりしないということは、自動的に「主語」と「述語」の関係もあいまいになる。上の例で言えば、「2週間後に結論を出すのは誰か」「早急に返信」というのは、誰が、いつまでに返信することを期待しているのかがあいまいになっているから、こういうことが起こる。正確に書くならば、「常務が、2週間以内に結論を出すべきと思っており」「そのためには、あなたに1,2日の間に返信をしていただく必要がある」と、伝えるべきであった。

 プライベートのメールやSNSでは、簡潔に、省略してやり取りする傾向が強くなる。そこで培われたクセを、ビジネスの現場に持ち込むと、意思疎通にずれが生じ、コミュニケーションロスが増えていく。小学校で学ぶ国語の基礎だが、「主語」と「述語」という日本語の根本は、できるだけおろそかにしないほうがいい。