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ビジネスの進化と条件;

 書籍をご愛読いただいているお客様から、「電子書籍はまだまだ読める人が少ない。職場で読ませたくても、読ませることができない。紙の本を出さないのか?」という、ありがたいご要望をいただき、アマゾンの「Print on Demand」という仕組みで紙での出版を進めている。(現在、審査中なので、問題がなければ、もうすぐ出版される。)
 この手続きを進めていくうえで、非常に違和感を持つのは、なぜ、これほどに電子書籍が普及しないのか?という点である。
 利便性という意味では、電子書籍と紙とでは、今更比較にならないほどの差がある。
 ・スマホ、タブレット、PCを含む、一般的に普及している端末で、読むことができる。
 ・気が向いたときにその場で購入し、その場で読める
 ・たいていの場合、紙の本よりも価格が安い
 ・所有するすべての本を持ち歩ける
 ・文字の大きさを変えられる(老眼にやさしい。)
などなど。最近は定額読み放題サービスも充実してきたので、消費者にとって使用しない理由が見当たらない。
 一方で、作者側の視点に立ってみても、電子書籍の利点は計り知れない。なんといっても、敷居が低い。マイクロソフトのワードで執筆し、完成したら、アップロードするだけだ。審査も短い。審査ではじかれたこともない。爆発的には売れないが、広告や宣伝活動を一切行わなくても、検索機能を通じて日々誰かの目にとめていただき、コツコツと数冊ずつお買い上げいただいている。
 ところが、これをPrint on Demandという、簡易な印刷で紙にしようとしただけで、事情が変わってくる。まず取次という中間業者を挟まなければならない。そして、コストも時間もかかる。電子書籍なら、アップロードして翌日には発売されていたものが、原稿を入れてから一週間たっても出てこない。価格も、印刷コストや取次のマージンなどがかかるので、電子書籍で299円で販売しているものが、2000円から3000円にしないと割が合わなくなってくる。
 これが、きちんと編集者を挟み、出版社を通じて出そうとしたら、いったいどういうことになるのだろう?と思う。
 音楽にしても、映像にしても、書籍にしても、私はすべてアマゾンの仕組み(PrimeとKindle)に依存するようになってきているが、文化的なライフスタイルががらりと変わる。なので、こうした仕組みを知らないという方に出会うと、まるでアマゾンの社員のように、全力でその良さをアピールするのだが・・・あまり興味を持ってもらえない。
 思うに三つの制約条件が大きい。一つは、電子機器に対する漠然とした不安である。単純に言うと「目に悪いのではないか」。四六時中、スマホを手放さないような方でも、意外とこれを言う方が多い。すでに相当の時間をスマホに費やしているのだから、いまさら何を、と思うのだが、やはり本を読むというのはそれだけ目を使うという印象が強いのだろう。
二つ目は、所有権の問題と、貸し借り、転売の問題だろう。お金を払っても物体が手元に残らない。業者が倒産したら、すべてが無に帰すというリスク。これが大きいのだろう。
三つめは、単純に認知度の問題。これは電子書籍の運営者が意図的にそうしているのかどうかわからないが、大々的にコマーシャルを打たない。既存のメディアに載せない。だから、上記のような利便性が伝わっていない。

 過去の価値観や習慣、考え方が根強く残っているうちはどんなに秀逸なビジネスモデルを編み出したとしても、収益ベースに乗ってこないのだろう。逆に言えば、どこかの段階で過去の価値観を、新たな価値観が上回った段階で、一気に市場が大転換を迎える可能性が高い。
 こうしたビジネスの進化や、市場の大転換に対して、早め早めに反応して対策を打つのか、こうした進化から目をそらすのかで、企業の戦略や成長の在り方が大きく変わってくる。金融や旅行、流通や食品、自動車やエネルギーなど、ビジネスの進化に伴う市場の大転換がすでに予測されている業界は多い。しかしながら、こうした大転換を機会ととらえて積極的にチャレンジしていくよりは、どちらかと言えば既得権益の保護に汲々としている企業が多いようにも感じる。
企業も、消費者も、もっと素早くビジネスの変化に対応していかなければならないのではないか、と、紙の本を出す準備をしながら、鬱々と考え続けたのであった。